2017年4月
     
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

固定ページ

カテゴリー

アーカイブ

藤田嗣治の世界と遊ぶ

視線の色気とでも言うだろうか。藤田嗣治の絵にはそういった不思議な魅力が存在する。肘をついて目を彼方へ向ける彼女の、また猫を抱いてこちらを見る彼女の、そして優雅に身を横たえる猫のそれでさえ、藤田が描く絵の中の登場人物たちの視線には艶かしい色気が宿っているのだ。藤田嗣治はフランスにおいて最も評価されている日本人の一人である。日本画の画法を油絵に取り入れた独自の画法で乳白色の肌と評される彼独自の美しさを追求し、20世紀初頭の西洋画壇を席巻した類稀な才能を持つ人物であった。彼が得意としたモチーフは女性と猫。彼の猫の絵画はもしかすると藤田嗣治を知らない人でも目にしたことがあるかもしれない。生き生きとした猫のあるがままを描いた彼の絵は見るものにまるでそれらが生きているかのような錯覚さえ覚えさせるほどだ。


目に込められた力、そしてその肢体のあまねくまでに生という存在に埋め尽くされたような姿は我々の胸をはっとつくものがあるのだ。その藤田の描くものとして、また戦争画も忘れてはならない。第二次世界大戦直後に長らく過ごしたフランスから日本へと帰国した藤田の描いた戦争画は美しくも凄惨。写実的に描かれた数々の絵画の中には人が人としてある姿の極限が描かれていると言ってもいい。大きなキャンバスに描かれる、戦場の陰惨な光景、戦士の叫び、嘆き、死への恐怖と生への渇望。描かれた彼らの一人ひとりの視線が余りに生々しい。藤田の描くものは全てに命が宿っている。彼がその戦争画をどのような思いで描き、そして彼らの視線によって人々に何を訴えかけたかったのか。それはおそらく彼自身だけが知るところであろう。しかしながら訴えかけるようなその視線が私達の心に爪あとを残すことは間違いはないだろう。藤田は生涯のほとんどを海外で過ごした。それは彼の芸術活動のおおよそが海外でのものであり、またそれが評価されたのもあちらであったからだ。日本に帰ってきた藤田が他の画家たちからやっかみめいた羨望を受けたのはそのせいかもしれない。大戦後再びフランスに戻った藤田はそこで国籍を取得し、二度と日本へ戻ることは無かった。


我々は藤田嗣治について何を知っているだろうか。藤田の絵や彫刻が持つ魅力を私達のほとんどはまだ知らないのではないだろうか。没後になって日本でようやっと受け入れられるようになった彼の心を私達は知るべきだろう。彼がどうして日本を離れ、そこで何を見つけたのか。私達は知るべきだろう。